オルトナーラ

「昔は心が裕福だった」苦難乗り越え16年。優しさに溢れた余市のイタリアン

2022.09.03

りんご、ぶどう、梨などのフルーツと、甘えび、ニシンなどの海鮮や水産加工品が有名な余市町。そんな余市町に16年前、イタリアンレストランを開業した1人の女性がいます。「Jijiya・Babaya(ジジヤ バヤヤ)」の辻冷子さんです。

今回はイタリアン開業のきっかけや、「Jijiya・Babaya」が16年間続く秘密について聞きました。

辻冷子(つじ・れいこ)。北海道余市町生まれ。65歳。夫の転勤の関係で途中20年間札幌に住む。その後余市町に戻り、父親の会社で経理を担当するが、会社が傾き異業種を探す。ピザ窯の会社の専務と出会い、イタリアンレストラン「Jijiya・Babaya」を開業。2022年8月現在16年目。

笑顔と優しさにあふれた「Jijiya・Babaya(ジジヤ バヤヤ)」

イタリアンレストラン「Jijiya・Babaya」は、JR余市駅から徒歩20分ほどの場所にあります。

お店に入ると、小さなお子様や家族連れの方でにぎわっていました。そして、おじいちゃんおばあちゃんも笑顔。入店してすぐにも関わらず、「Jijiya・Babaya」が余市に暮らす人にとって外食する楽しみの一つになっているように感じました。

筆者は余市のワイナリー「ドメーヌ タカヒコ」のワインとビール、『なすとベーコンのトマトパスタ』、トマトソース・モッツァレラ・なすのピザ『オルトナーラ』を注文しました。

余市のワインに溶け合うようなパスタとピザ。“食事をたしなむ”ような感覚。心が落ち着き、イライラが吹き飛び、優しくリラックスできる時間……。そんな優しさと落ち着きにあふれた雰囲気の背景には、店主・辻さんの“優しさ”がありました。

心が裕福だった昔の時代が原点

お店の雰囲気が醸し出す“優しさ”の原点は「父と母の後ろ姿」だと辻さんは話します。

「みなさん、“どこかで修行したんですか?”ってよく聞かれますけど、修行期間は一切ないんですよ。父と母はものすごく料理が上手で、見よう見まねで手伝っていたことが今に生きています。開業する前は、夫の部下や友だちを呼んで食事を作ることをよくしていて、作ったら喜んでくれる“食”の時間が大好きなんです」

さらに辻さんは振り返ります。

「昔は大きな鍋に食材を入れて配る風習がありました。たとえば漁師さんが朝獲れたての魚を入れてくれたり、山の果物を盛ってくれたり。ご近所さんとの関わりもオープンで、向かいのおじいさんが100歳のときに息を引き取るまでそばにいたこともありました。薪ストーブにあたりながら、お茶を2時間ぐらい飲んで、また家に帰っていくということも。そんなすごく情がある時代に育ったのが、とても良かったと思います。自動ドアもコンビニもない時代ですけど、“心が裕福”だったと思いますね」

イタリアン開業のきっかけは、家業の会社の危機と出会い

心が裕福な時代を過ごされてきた辻さんは、結婚と家族の転勤を機に札幌に20年間居住。その後、家業である建設会社を手伝うために余市に戻ると、そこには試練が待っていました。

「父の建設会社は余市で1、2を争う大きな会社でしたが、だんだん工事が少なくなり建設業一本で経営を維持することが難しくなりました。異業種にも手を広げようと交流会に行ったりして、いろいろな話を聞くようになりました」

会社のアンテナショップとして、シックハウス対策のリフォームができることを次の目玉にしようと辻さんは動きます。しかしちょうどその矢先、お父様が亡くなられたのです。会社はどんどん悪くなり、借金や財産を整理するために辻さんが社長になりました。

そんな辻さんの大変な状況を打開したのは、一つの出会いでした。それがイタリアンレストラン開業のきっかけとなるのです。イタリアンにすることは全く考えていなかったという辻さん。たまたま、東京都足立区でガスバーナーを主体にピザ窯の製造やイタリアンレストランの経営をしている会社を見つけ、広報を見てすぐに専務さんに会いに行きました。

「とてもいい専務さんで、群馬にもアンテナショップがあって、連れて行っていただきました。お知り合いのシェフや周囲の方にも“辻さんが質問することはみんな答えてあげて”と言ってくれ、一からいろんなことを教えてもらいました。出会えた私はラッキーでした」

「Jijiya・Babaya」の看板メニュー誕生の背景

こうして辻さんはイタリアンレストラン「Jijiya・Babaya」を開業しました。

幼いころから両親の料理づくりに触れてきた辻さんだからこそできたメニューがあります。『ヘラガニのトマトクリームパスタ』です。

「シェフに教えてもらったときは定番のワタリガニだったんですけど、自分自身は納得がいかなくて。昔はヘラガニを塩ゆでしておやつ代わりに食べていたので、“こんなおいしいカニをパスタに使わない手はない!”と思ってヘラガニを導入しました。それから今まで大人気のメニューです!」

この『ヘラガニのトマトクリームパスタ』を目当てに札幌からJRとバスを乗り継いでくるご高齢の方もいるんだとか。

さらに、「今のヘラガニは料理としては出せますが、保存に関してはまだまだ課題があります。パウチにすると爪がパウチを突き破ってきたり、缶詰めにすると爪が腐食してきたりするので、市販品としては出せない食材。余市はカニだけではなく甘エビなども人気なので、レトルトや冷凍にして販売することも視野に入れています」と、辻さんは未来を見据えます。

お店が続く秘密は「人に優しく」

16年間続く「Jijiya・Babaya」。辻さんはこれまでの道のりを「借金を返すのに必死でした。もともと人と接するのは好きなのですが、背景には重いことがあったので、一生懸命やるしかなかったですね」と振り返ります。

それでも、こうして続けてこられたのは、余市で食事を作り、おすそ分けをしてきたあたたかい辻さんを応援する人がいたから。札幌に住んでいたときによくおすそ分けしあっていたご近所さんや息子さんの幼稚園で関わったママ・パパとは今でもつながりがあるといいます。

「会社が傾いたとき、『Jijiya・Babaya』と並行して札幌の狸小路10丁目でもお店をやっていました。こだわりのワインや日本酒をおいて、とてもいい常連さんがついてくれました。しかし、4年半で私が体調を崩してしまい、余市のお店一本に。今でもその常連さんがわざわざ札幌から余市にきてくれています」

そして、辻さんのご家族も献身的に支えてくれたそうです。

「私が銀行などを相手にきつい話し合いをしたときには夫が助けてくれました。また、16年間無給でホールとして手伝ってくれたんです。もはや同志ですね。息子は会社を経営してくれています。ちなみに、妹は余市でパフェ店『Hata no naka』をやっています」

新型コロナウィルスや材料費の高騰などいろいろな変化に直面する現在ですが、「やっぱりどうあがいてもなるようにしかならない。昔、いろいろな苦しいことがあったから、目の前で何かが起きたとしても強くなれます」と、ぶれずに前を向きます。

スタッフには、“人に優しく”“笑顔で”を伝えているといいます。ご高齢の方やお子様がきたときには腰をかがめる。そんなあたたかなサービスがスタッフも自然にできるようになっています。

「優しさがあればどんなこともクリアできると思います。泣くこともありますし、苦しいこともありますけど、原点に戻ればいいことがある。私は65歳になりますが、年齢で区切るのではなく、できるところまでやっていきたいと思っています」

筆者はこの言葉にジンときました。どんなに苦しくても、笑顔で食事を作り、おすそ分けをする。そんな優しくてあたたかい姿を見て、心から辻さんを応援したいと思いました。

 

「写真はお恥ずかしいのでNGで」と笑う辻さん。日々のイライラやストレスがたまっている人は、“優しさ”にあふれた辻さんに会いに、余市に足を運んでみてはいかがでしょうか。

<店舗情報>
■Jijiya・Babaya(ジジヤ バヤヤ)
■住所:北海道余市郡余市町朝日町15-1
■電話番号:0135-22-7822
⇒営業時間など詳細はこちら

⇒こんな記事も読まれています
話題の新店も!おすすめテイクアウトグルメまとめ
絶品グルメの宝庫!よらないともったいない道の駅


LINE友だち追加